ミセバンAIは、コードを書く開発者が作っているのではない。
プロンプトを書く開発者が、AIエージェントのチームを率いて作っている。
本記事では、1人の創業者がClaude Codeを使い、CEO・CTO・デザイナー・マーケターなど6つのAIエージェントを並列起動して会議を開き、意思決定し、即日実装するまでの全手法を公開する。
1. プロダクト開発の新しい形
従来のスタートアップ開発を思い浮かべてほしい。5-6人のチームを採用し、毎週ミーティングを開き、仕様を決め、実装し、レビューし、デプロイする。早くても1つの機能に2-3週間。
ミセバンAIの開発は違う。
1人の開発者 + Claude Code = 6人のAIエージェントチーム。コードを書く前に「会議」をする。AIに考えさせてから実行する。
実際のタイムラインを見てほしい。
Day 1: ゼロからプロダクトの骨格を構築
- ランディングページの設計・実装・デプロイ
- Rustバックエンドのアーキテクチャ設計と基盤構築
- CI/CDパイプラインの構築(テスト→ビルド→デプロイ)
- ブログシステムの構築と最初の記事公開
- 所要時間: 6時間
Day 2: AI経営会議で7つの意思決定
- 6人のAIエージェント(CEO, CTO, CFO, CPO, PM, Growth Hacker)を並列起動
- プロダクト戦略、価格設定、技術アーキテクチャ、Go-to-Market戦略を同時に議論
- 7つの意思決定を確定し、その場で実装に着手
- 会議30分 → 実装3時間 → 全てデプロイ完了
Day 3: 3つの会議を連続開催
- リリース準備会議: MVP定義、Go/No-Goゲート設計、6週スプリント計画
- マルチプロダクト戦略会議: 5プロダクト同時開発の是非を経営陣が激論
- デザインレビュー会議: 4名の専門家がUI/UXを徹底レビュー → 即日改善
3日間で、通常のスタートアップが1-2ヶ月かける意思決定と実装を完了した。
2. プロンプトの書き方 — 全公開
ここからが本記事の核心だ。実際に使っているプロンプトを、そのまま公開する。
AIエージェント会議の起動プロンプト
6つのエージェントを並列起動し、それぞれの専門領域から意見を出させる。重要なのは「独り言」の指示だ。これにより、建前ではなく本音の議論が生まれる。
6人のAIエージェントを並列に起動し、以下の議題について議論してください。
## 参加者
1. CEO「田中 翔太」— 事業判断・市場分析
2. CTO「山田 理」— 技術アーキテクチャ・実装可能性
3. CFO「佐藤 美咲」— 財務・コスト分析
4. CPO「鈴木 健一」— プロダクト設計・UX
5. PM「高橋 彩」— スケジュール・リソース管理
6. Growth Hacker「渡辺 拓」— グロース戦略・データ分析
## ルール
- 各参加者は発言の前に【独り言】(内心を書いてください。建前ではなく本音で。)を必ず書く
- 他のメンバーの発言に対して、賛成・反対・条件付き賛成のいずれかを明示する
- 最終的に議長(CEO)が結論をまとめる
## 議題
[ここに議題を書く]
## 前提情報
[コードベース、予算、タイムラインなどの制約条件を書く]
「独り言」がなぜ重要なのか。通常のAIは「正しそうなこと」を言おうとする。しかし「内心を書け」と指示すると、「これは本当に大丈夫か?」「正直リスクが高い」「でも言い出しにくい...」といった本音が出てくる。この一言で、AIの出力品質が劇的に変わった。
実際のプロンプト例を見てみよう。
あなたはCEO「田中 翔太」です。以下の前提でマルチプロダクト戦略の是非を議論してください。
【独り言】(内心を書いてください。建前ではなく本音で。)
前提:
- 5プロダクト同時開発
- 8週間タイムライン
- 予算100万円
- 開発者1名(創業者のみ)
- 全プロダクトがAI×店舗DXの領域
質問:
1. 5プロダクト同時は「リソース分散」か「相互シナジー」か?
2. どのプロダクトを最優先にすべきか? 根拠は?
3. 撤退基準をどう設定するか?
このプロンプトに対して、AIは以下のような「独り言」を出力する。
【独り言】(正直、5プロダクト同時は無謀だと思う。でもCTOは「技術基盤を共有すれば可能」と言うだろうし、Growth Hackerは「ポートフォリオ戦略だ」と言うだろう。でも自分の経験上、1つもPMFしていない段階で5つに手を出すのは...。まあ、まずは聞いてみるか。)
専門家チームによるUI/UXレビュー
超一流デザイナー、マーケター、ブランド戦略家、フロントエンドエンジニアを同時に起動し、多角的にレビューする。
あなたは世界的UIデザイナー「佐藤 悠(元Apple Design Team → Airbnb Principal Designer)」です。
以下のサイトのHTMLを読んで、超一流デザイナーの視点でUI/UXを徹底レビューしてください。
## レビュー観点
1. 視覚的ヒエラルキー: 情報の優先順位が正しく表現されているか
2. タイポグラフィ: フォントサイズ・行間・文字間のリズム
3. カラーシステム: ブランドカラーの一貫性、コントラスト比
4. スペーシング: 余白のリズム、8pxグリッドへの準拠
5. マイクロインタラクション: ホバー、トランジション、フィードバック
6. モバイル体験: タッチターゲット、スクロール体験
7. アクセシビリティ: WCAG 2.1 AA準拠
## フォーマット
各観点について:
- 現状スコア(/10)
- 具体的な問題点
- 改善案(CSSコード付き)
[ここにHTMLコードを貼る]
同時に、別のエージェントとして以下も起動する。
あなたはグロースマーケター「田村 恵(元Mercari Head of Growth → Stripe Japan Marketing Lead)」です。
同じHTMLを読んで、コンバージョン最適化の観点でレビューしてください。
## レビュー観点
1. ファーストビュー: 3秒以内に価値提案が伝わるか
2. CTA: ボタンの配置・文言・色・サイズは最適か
3. 信頼性シグナル: ソーシャルプルーフ、数字、ロゴ
4. 離脱ポイント: どこでユーザーが迷うか
5. ストーリーフロー: 上から下に読んだときの感情の流れ
意思決定の質を上げる「独り言」テクニック
AIに「建前」と「本音」を分けて書かせることで、議論の深さが段違いに変わる。
通常のプロンプトで「この戦略についてどう思いますか?」と聞くと、AIは「良い戦略だと思います。ただし以下のリスクがあります...」と優等生的な回答をする。
しかし「独り言を書け」と指示すると、こうなる。
## フォーマット
### 【独り言】
(他のメンバーには聞こえない内心。建前ではなく本音で。
「これは無理だと思う」「正直、自分の専門外だ」「他のメンバーは気づいていないが...」
といった本音を必ず書くこと。)
### 【発言】
(会議での正式な発言。データと根拠に基づいて。)
### 【提案】
(具体的なアクションアイテム。担当者・期限・成功基準を明記。)
この構造を使うことで、AIは「言いにくいこと」を独り言として出力する。結果として、楽観的すぎる計画にブレーキがかかり、見落としていたリスクが表面化する。
会議の結論をそのまま実装指示に変換する
議論で終わらせない。結論が出た瞬間に、そのまま実装フェーズに移行する。
プロンプト駆動開発のフロー
を並列起動
議論
まとめる
に変換
即日実装
## 会議の結論を実装に変換する
以下は先ほどの経営会議の結論です。これを実装指示に変換してください。
### 会議の結論
- 価格体系: フリープラン(カメラ1台)+ スタータープラン(¥4,980/月、3台)+ プロプラン(¥14,800/月、10台)
- 技術方針: エッジ推論を優先。映像はクラウドに送らない
- MVP範囲: ダッシュボード8画面 + LINE通知
### 実装指示に変換するルール
1. 各結論を具体的なタスクに分解する
2. 各タスクに「完了の定義」を明記する
3. 依存関係を明示する(何を先にやるべきか)
4. 推定工数を書く
5. テスト方針を書く
このフローの強みは、「議論」と「実装」の間にタイムラグがないことだ。通常の開発では、会議の結論を議事録にまとめ、チケットを切り、スプリントに入れ、実装に着手するまでに数日〜数週間かかる。このフローでは、会議の結論がそのまま実装指示になり、数分後にはコードが生成されている。
3. 実際の成果
プロンプト駆動開発で、実際にどれだけのアウトプットが出たか。
具体的な成果を列挙する。
- ランディングページ: デザイン→実装→デプロイ→4名のエキスパートレビュー→改善実施を1日で完了
- ブログ記事12本: 技術解説、会議の全文公開、意思決定サマリー、戦略解説を2日で公開
- AI経営会議3回: プロダクト戦略、リリース判定、マルチプロダクト戦略を各30分で議論・決定
- CI/CDパイプライン: テスト→ビルド→デプロイの自動化を初日に構築
- 全プロセスの透明性: 会議の全文、意思決定の根拠、プロンプトの原文を全てブログで公開
最後の項目が特に重要だ。透明性そのものがマーケティングになる。「AIでプロダクトを作っている」という事実を公開すること自体が、同じことをやりたい開発者やスタートアップ創業者の関心を引く。
4. このアプローチの限界と学び
AI駆動開発は万能ではない。3日間の実践で見えた限界と学びを正直に書く。
限界: AIにできないこと
- AIは「考える」が「感じない」。顧客が本当に困っていることは、データからは見えない。店舗に足を運び、オーナーの表情を見て、声のトーンを聞くことでしか分からない。AIエージェントの会議でどれだけ議論しても、顧客の「生の声」の代わりにはならない。
- AIは「最適解」を出すが「狂気的なアイデア」は出さない。AIの提案は常に合理的だ。しかし、ブレイクスルーは往々にして「合理的に見えない」ところから生まれる。Airbnbの「見知らぬ人の家に泊まる」もUberの「見知らぬ人の車に乗る」も、AIなら「リスクが高い」と却下しただろう。
- プロンプトの質 = アウトプットの質。曖昧な指示からは曖昧な結果しか出ない。「良いサイトを作って」ではなく「WCAG 2.1 AA準拠、8pxグリッド、フォントスケール1.25倍」と指示する必要がある。プロンプトを書く人間のスキルがボトルネックになる。
学び: 劇的に効いたテクニック
- 「独り言を書け」の一言。この指示を追加するだけで、AIの出力品質が劇的に変わった。建前の「良いと思います」が消え、「正直これは不安だ」「他のメンバーは気づいていないが」という本音が出てくる。
- 並列起動で多角的な視点。1つのAIに全てを聞くのではなく、6つのエージェントに別々の役割を与えることで、視点の偏りが減る。CTOが「技術的に可能」と言っても、CFOが「コスト的に無理」と言い、PMが「スケジュール的に厳しい」と言う。
- 会議→実装のゼロタイムラグ。議論と実装の間にチケットも承認フローもない。結論が出た瞬間にコードが生成される。このスピードは、従来の開発プロセスでは不可能だ。
- 公開すること自体が価値。プロセスの透明性は、信頼の構築にもマーケティングにもなる。「何を考えて、どう意思決定したか」を公開することで、読者は自分のプロジェクトに応用できる。
5. 未来: 1人で100人分のチーム
AI駆動開発の時代、個人開発者がスタートアップを1人で回せるようになった。
これは誇張ではない。ミセバンAIの開発を振り返ると、以下の役割を全てAIエージェントが担っている。
- CEO: 事業戦略の策定、意思決定のファシリテーション
- CTO: 技術アーキテクチャの設計、コードレビュー
- CFO: コスト分析、価格設定、財務シミュレーション
- CPO: プロダクト仕様の策定、UXフローの設計
- デザイナー: UI/UXレビュー、改善提案
- マーケター: コンバージョン最適化、コンテンツ戦略
- エンジニア: コードの生成、テストの実装、デプロイ
残っている「人間の仕事」は何か。
「何を作るか」を決めること。そして、顧客の声を聞きに行くこと。
判断力と共感力。これだけは、まだAIに任せられない。逆に言えば、それ以外の全てはAIに委譲できる時代になった。
ミセバンAIの全プロセスは、このブログで公開し続ける。プロンプトの書き方、会議の全文、意思決定の根拠、失敗した試み。全てをオープンにすることで、AI駆動開発を始めたい人の参考になれば幸いだ。
次回の記事では、実際の顧客インタビューの結果と、そこから得られた「AIには見えなかったインサイト」を公開する予定だ。
AI駆動で生まれたプロダクトを体験してみませんか?
ミセバンAIは、この記事で紹介した手法で開発されています。
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