何をやったか: Claude Code上で5つの専門エージェント(CEO・CFO・CTO・CPO・PM)と4つの顧客ペルソナを同時に起動し、ミセバンAIのプロダクト戦略について「忖度ゼロ」の模擬経営会議を実施しました。
なぜ公開するか: スタートアップの意思決定プロセスをオープンにすることで、同じ道を歩む人の参考になればと思っています。AIエージェントならではの「容赦ない率直さ」が読みどころです。
1. CEO 田中 — 総合評価と市場参入戦略
総合所感: 面白い着眼点だと思う。「既存カメラ × SaaS」は在庫リスクがなくて、サブスクリプション型で積み上がる。スタートアップの初手としては悪くない。ただし「慎重な楽観主義」で進めるべきだ。
市場の読み: 日本の中小小売・飲食は約180万店舗。うちカメラ設置済みが50-70%。ここに月額¥2,980のソフトウェアを売り込むのは、市場サイズとしては十分だ。問題は「痛み」の深さ。来客カウントが本当に月¥2,980の価値があるか、まだ検証できていない。
最大の懸念 — 個人情報保護法:
- 2025年改正個人情報保護法で、カメラ映像のAI解析はグレーゾーンが広がっている
- 顔認識をしないとしても「行動追跡」に対する社会的な抵抗感は強い
- 個人情報保護委員会のガイドラインに準拠した設計を初日から入れるべき
- プライバシーポリシーテンプレートを提供できれば差別化要素になる
広告投下の前にやるべきこと:
- 最低5店舗の「顧客インタビュー」を先にやれ。Google Adsに¥30,000投下する前に、飲食店オーナー5人に30分ずつ話を聞くだけでいい
- 「来客数を知りたいですか?」ではなく「今の経営で一番困っていることは?」と聞く
- もし5人中3人以上が「客数の把握」に言及しなければ、ポジショニングを変える必要がある
2. CFO 鈴木 — 財務モデルと収益性分析
価格設定への指摘: 率直に言う。¥2,980は安すぎる。
競合のABEJA Insight for Retailが月額¥16,000、Safie ONEが月額¥6,820。ここで¥2,980に設定すると「安かろう悪かろう」に見られるリスクがある。価格は品質シグナルでもある。
ユニットエコノミクス分析:
- 想定ARPU: ¥2,980/月(Starterプラン中心の場合)
- 想定チャーンレート: 5-8%/月(小規模店舗SaaSの業界平均)
- 顧客生涯価値(LTV): ¥2,980 ÷ 0.065 = ¥45,846
- 想定CAC(Google Ads中心): ¥19,000-¥25,000
- LTV/CAC比率: 1.8-2.4倍
SaaS健全性の基準はLTV/CAC ≥ 3倍。現状のモデルでは基準を下回る。
キャッシュフロー危機点:
- 初期投資¥1,000,000で開始
- 月間固定費: サーバー¥30,000 + 広告¥100,000 + その他¥50,000 = ¥180,000/月
- 損益分岐: 月間61契約(¥2,980 × 61 = ¥181,780)
- キャッシュが枯渇するタイミング: 6-8ヶ月目(獲得ペースが月10件未満の場合)
提言:
- 最低価格を¥4,980/月に引き上げ。フリープランは1カメラ・7日間限定で
- 年間プランの前払い割引(20%OFF)で初期キャッシュを確保
- 「IT導入補助金」対象にできれば、実質負担ゼロで導入可能。これは強力な営業ツールになる
- 代理店モデルの30%手数料は高すぎる。20%から始めて実績ベースで上げるべき
3. CTO 山本 — 技術ロードマップとリスク
現状のコードレビュー: Rustワークスペースの構造は良い。4クレート分離(agent / api / ai / shared)はマイクロサービス化を見据えた設計として正しい。だが致命的な問題が1つある。
AI推論がまだ存在しない。
crates/ai/src/lib.rs の analyze_frame() はモックデータを返しているだけだ。つまり現時点でこのプロダクトは「画像をアップロードして保存するだけのシステム」であり、AI分析という中核機能がゼロ。
RTSP実装のリスク:
- RTSPは「地雷原」だ。メーカーごとにURL形式が違う、認証方式が違う、ストリームの安定性が違う
- 現在のffmpegベースの実装は正しいアプローチだが、エラーハンドリングが甘い
- 日本の家庭用WiFiルーターはUPnPが無効化されていることが多く、NATトラバーサルの問題が頻発する
- 店舗のネットワーク環境は劣悪(帯域共有、不安定なWiFi)。リトライとグレースフルデグラデーションが必須
推論エンジンの選択:
- 推奨: ONNX Runtime — クロスプラットフォーム、Rustバインディングあり(ort crate)、YOLOv8のONNXエクスポートは公式サポート
- クラウド推論なら: AWS Lambda + ONNX Runtime(Cold startが問題になるが、Provisioned Concurrencyで対応可能)
- エッジ推論なら: RPi上でONNX Runtime + CPU。FP16量子化で精度をほぼ落とさずに2-3FPSは出る
2週間スプリント提案:
- Week 1: YOLOv8n(nano)のONNXモデルをダウンロード → ort crateで推論パイプライン構築 → 人物検出(BBox)+ カウントロジック実装
- Week 2: APIエンドポイントに推論統合 → ダッシュボード用の時系列データ保存 → 基本的なアラート(急激な客数変動)
セキュリティ面: deny.toml、gitleaks、CIパイプラインは良くできている。ただし映像データの暗号化(転送中 + 保存時)のポリシーを明文化すべき。HTTPS転送は実装済みだが、S3保存時のSSE-KMS暗号化も必須。
4. CPO 中村 — プロダクト体験とポジショニング
LPの第一印象: デザインのクオリティは高い。Stripe/Linearレベルの洗練さがある。ただし致命的なUXの穴がある。
「Docker」という単語がコンバージョンを殺す。
セットアップ方法の1つ目が「PCでDockerを起動」になっている。ターゲット顧客(飲食店オーナー、小売店店長)の99%はDockerを知らない。「Docker」と見た瞬間に「自分には無理だ」と離脱する。
ポジショニングの問題:
- 「来客カウント」だけでは弱い。店舗オーナーが本当に欲しいのは「意思決定の支援」
- 「今日は15時からスタッフを1人減らしても大丈夫」— これが価値
- 「今週の水曜日は先週より20%客足が少ない」— これだけでは行動につながらない
- カウントは手段であって目的ではない。「データ → インサイト → アクション」まで繋げないと月額課金の価値がない
具体的な改善提案:
- セットアップは「スマホで撮影」を第一選択肢に。ハードル最小
- LP上のヘッドコピーを「来客を数える」から「売上を予測する」に変更
- ダッシュボードのモックアップをLPに掲載。「何が見えるか」を具体的に示す
- 初回セットアップは「3分で完了」のステップバイステップ動画を必ず用意
- フリープランでは「過去7日間のデータ」のみ閲覧可能にして、有料への引き上げ動機を作る
競合との差別化軸:
- ABEJA: 大手小売向け、高価格、API中心 → ミセバンAIは「中小店舗特化、UIファースト」
- Safie: ハードウェアバンドル、月額¥6,820 → ミセバンAIは「既存カメラ活用、半額以下」
- 差別化の核: 「専門知識ゼロで使える」ことを全面に出す
5. PM 伊藤 — 実行計画とKPI設計
North Star Metric(NSM)の定義:
プロダクトの成長を測る唯一最重要指標。ミセバンAIのNSMは:
週間アクティブ店舗数(= 過去7日間に1回以上ダッシュボードにログインした店舗数)
「契約数」ではなく「アクティブ数」にすることで、チャーンの先行指標として使える。ダッシュボードを見なくなった店舗は1ヶ月以内に解約する。
現時点での最大の問題:
ベータ店舗が0件。 LPもブログも完璧に作ったが、実際に動いている店舗が1つもない。機能開発の優先順位を決めるためのフィードバックソースがゼロ。
30/60/90日マイルストーン:
30日目(3月末):
- ベータ店舗 5件を確保(知人・紹介・飛び込み)
- AI推論(人物検出)をMVP実装
- 最低限のダッシュボード(日別来客グラフ)を提供
- NPS(Net Promoter Score)を1回計測
60日目(4月末):
- ベータ店舗 15件に拡大
- チャーンレートの初回計測
- セットアップ完了率の計測と改善
- 「来客予測」機能のプロトタイプ
- Google Ads広告テスト開始(¥30,000/月)
90日目(5月末):
- 有料契約 30件を目標
- MRR ¥100,000突破(平均¥3,300/月 × 30件)
- IT導入補助金の申請準備完了
- 代理店パートナー 3社と契約
機能開発の優先順位:
- AI推論(人物検出 + カウント)— これがないと何も始まらない
- 基本ダッシュボード — 日別・時間別の来客グラフ
- LINEアラート連携 — 「13時の来客数が前週比-30%」のような通知
- スマホセットアップアプリ — Dockerの代替
- 来客予測 — 過去データからの時系列予測
6. 顧客ペルソナ — 4人の生の声
「正直、このページ見ても何ができるかよくわからんのよ。RTSPって何?Dockerって何?俺はスマホでLINEとPayPayが使えるくらいだよ。」
「来客を数えてくれるのは面白いとは思う。でもさ、俺は毎日店に立ってるから、混んでるか空いてるかは体感でわかるわけ。それより『今日は仕込みを何人前にすべきか』とか、『バイトを何時に上がらせていいか』を教えてくれるなら金払うよ。」
「月3,000円は安いと思うけど、設定が自分でできなきゃ意味ない。来て設置してくれるサービスがあるなら話は別。」
「面白そう。うちは防犯カメラが2台あるんだけど、録画してるだけで見返すことほぼないんだよね。これが客数カウントしてくれるなら、既存の設備が活きるのはいいな。」
「でもさ、最初は無料で試したい。いきなり月額を払う気にはならない。2週間の無料トライアルで実際にデータが見れて、『あ、これ便利じゃん』ってなったら課金する。」
「あと、時間帯別の客数がわかると助かる。うちは平日の14-16時がめちゃ暇なんだけど、本当にそうなのかデータで見たい。そこにSNS投稿やセールのタイミングを合わせられたら最高。」
「価格は月5,000円以下なら許容範囲。年間契約で割引があればそっちにする。」
「代理店手数料30%は魅力的。月額¥2,980の30%で¥894/月。100件売れれば月¥89,400のストック収入。悪くない。」
「ただ、懸念が3つある。」
- 技術サポート: 客から『映らない』『数字がおかしい』と電話が来たとき、俺が対応するのか?メーカーが対応してくれるのか?ここが曖昧だと売れない
- カメラ互換性: 互換カメラリストは良くできてるが、実際に動作確認したのはどれ?テスト済みの「推奨カメラ」があると客に提案しやすい
- 契約書: 代理店契約のひな形、SLA(サービスレベル合意)、責任範囲の明文化がないと営業できない
「もう一つ言うと、初回セットアップの手数料が欲しい。月額ストックだけじゃ営業のモチベーションが維持できない。初回¥15,000-¥20,000の設置料を取れる仕組みにしてくれ。」
「IT導入補助金の対象になれば、実質最大3/4補助で導入できる。¥2,980/月 × 12ヶ月 = ¥35,760。補助率3/4なら自己負担¥8,940/年。これは売りやすい。」
「ただし、IT導入補助金の対象になるにはIT導入支援事業者としての登録が必須。これには法人格、3年分の決算書、SECURITY ACTIONの宣言が必要。個人事業主では通らない。」
- 法人化: まだ法人化していないなら、補助金対象になれない。最優先で対応すべき
- SECURITY ACTION: IPAの「SECURITY ACTION」二つ星宣言が必要。これは自己宣言なので取得は容易
- ITツール登録: 補助金事務局にツールとして登録申請。審査に1-2ヶ月かかる
「補助金が使えるようになれば、私のクライアント(飲食チェーン、小売店)に紹介できる。手数料は成約1件あたり¥30,000-¥50,000が相場。」
会議を終えて
以上が、AI経営会議の全記録です。忖度ゼロのフィードバックは痛いところだらけでしたが、これがプロダクトを強くする唯一の方法だと信じています。
この会議の結果を受けて、チームとしてどう動くかをまとめたサマリー&意思決定記事もあわせてお読みください。
この記事は、Claude Code上で5つのサブエージェントを並列実行して生成された会議議事録をもとに構成しています。各エージェントには役割・バックグラウンド・評価基準を付与し、独立した視点からの分析を行わせました。